職場でのハラスメント対策
具体的事例で見る「加害者にならないための注意点」
日本経済新聞出版社
職場のマタニティハラスメントの例
マタニティハラスメントは、妊娠・出産をした(または考えている)女性が受ける、嫌がらせ、解雇や降格など不当な扱い、退職の強要などの行為をさします。男女雇用機会均等法や育児介護休業法でも禁止されており、女性が産休や育児休暇、育児のための時短勤務をすることは法律で認められた正当な権利ですが、マタハラはなかなかなくならないのが実情です。なぜ、職場でのマタニティハラスメントはなくならないのでしょうか?
藤田主任「高橋さん、もう帰ったほうがいいんじゃない?旦那さん、待ってるでしょう?」
高橋美奈子「いえ、これは今日中に仕上げなくちゃならないんです。主任、残業してもよいでしょうか?」
藤田主任「だめよ、高橋さん。あなた大事な身体なんだから。妊婦さんを大切にしないと課長や人事からいろいろと・・・。」
高橋美奈子「え?なんですか?(何か人事から言われるのかしら?)」
藤田主任「いや、なんでもないわ、大丈夫、これは紺野さんにやってもらうから。紺野さんちょっと、これ高橋さんの代わりにやってもらえる?」
紺野ゆかり「え?あ、はい・・・(今日これから用事あるのに・・・)。」
高橋美奈子「主任、紺野さん、大丈夫、私できますから。」
藤田主任「高橋さんに何かあってからでは遅いから。ね、紺野さん、お願いするわ。」
紺野ゆかり「はい、わかりました(妊婦はいいわね、早く帰らせてもらえて・・・)」
藤田主任「紺野さん、お願いね。がんばった分は必ず評価につながるから。」
紺野ゆかり「はい、ありがとうございます。」
高橋美奈子「すみません、お願いします・・・(それ、紺野さんの評価になっちゃうの?私は妊娠しているから評価してもらえないの?)」
藤田主任「お腹に赤ちゃんがいるんだから仕方ないわね(まったくこの忙しい時期に妊娠するなんて・・・)」
「女性は結婚したら家庭に入るべき」というひと昔前の価値観を女性に押しつけることや、妊娠・出産を理由に退職を迫ったりすることだけがマタニティハラスメントではありません。このように、妊娠している女性が業務を全うしたいと考えているのに、妊娠していることを理由に業務から外すこともマタニティハラスメントのひとつです。しかし、実際に職場の同僚や部下にしわ寄せがいったり、業務が停滞したりした場合どうでしょう?周囲の人たちが残業や休日出勤などをしてカバーしなければならない場面も出てくるでしょう。そうなれば、上の事例のように、妊娠している女性は不満をもたれてしまうかもしれません。
カバーしている周囲の従業員が不公平感をもつことは、さらなるマタニティハラスメントにつながります。そうならないために対策をするのは企業の責務です。企業として、妊娠、出産や育児への理解を深めるとともに、職場全体で普段から情報共有をし、業務をお互いが気持ちよくフォローしあうことができる環境づくりが重要です。マタニティハラスメントのない環境づくりをすることは、妊娠中・育児中の女性はもちろん、職場にいるすべての人にとっても有益なものとなるでしょう。
同時に、産休や育休を取得したり時短勤務をしたりする場合は、周囲の協力への感謝を忘れないようにすることも大切でしょう。また、マタニティハラスメントにおいては男性が加害者、女性が被害者になると思われがちですが、生き方が多様になった現在、女性が知らず知らず加害者になってしまうこともあるのです。職場ですべての人がマタニティハラスメントについてしっかり学び、理解を深めることが求められています。
急がれるハラスメント防止の対策
いかがでしたでしょうか。いくら気をつけていても起きてしまう職場でのハラスメント。職場でのハラスメントは、対策しなければならない緊急の課題です。ひとつの行為をとってみても、それが「ハラスメントだ。」と感じる人とまったく感じない人がいます。これまで見てきたように、意図せずに起こってしまうハラスメントもあります。一人ひとりが意識して、いろいろな考え方の人がいるということを、社員同士が話し合って理解していくことが大切です。
ただ社員同士がやみくもに話し合えばいいというものでもありません。きちんとした研修を通して、まずは「ハラスメントとは何であるか」「ハラスメントをしない、受けないためにはどうすればいいか」をしっかり学んでいくこと。また、職場でルールを作り、一人ひとりがしっかり意識して守っていくことも大切です。万が一ハラスメントにあった場合に、声をあげやすい、相談しやすい環境づくりも重要です。
ハラスメントが大目に見られたり、見逃されたりした時代はもう終わりました。今は社会全体がハラスメントに対して敏感になっており、大きな転換点にきていると言えます。誰もが働きやすい職場づくりのため、一人ひとりの意識改革と職場での対策が今、求められているのです。
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