職場でのハラスメント対策

具体的事例で見る「加害者にならないための注意点」

日本経済新聞出版社

職場におけるセクシュアルハラスメントの例

上司が部下に仕事を頼み、成果を期待する言葉をかける。毎日当たり前にどこの職場でも行われていることです。では、上司の男性が、部下の女性がずっとやってみたいと思っていた仕事を任せるというシチュエーションで考えてみましょう。

木村部長「田中さん、この仕事、田中さんに任せたいと思うんだけど、いつまでにできるかな?ちょっと急ぐんだけど大丈夫かな?」

田中明美「部長、ありがとうございます!そうですね、明日までには何とか。頑張ります!」

木村部長「さすが田中さんだね、期待しているよ、頑張って。」

上記は言葉だけ見ると、職場での日常会話のように思えます。しかしこれが、もし上司に下心があって部下の女性がやりたがっていた仕事を任せ、その対価として交際を迫ったりするのなら、それはハラスメントになってしまうのです。たとえば期待のあまり、部下の女性の肩に手を置きながら励ました場合はどうでしょうか。やる気を出してもらおうと、服装や容姿を「頑張っている女性はきれいだね~。」などと褒めたりしたら?はじめての仕事を任せて不安に思っているかもしれないから、心を楽にしてもらおうと親しみを込めて「明美ちゃん、どう、うまく進んでいるかい?」と女性に「ちゃんづけ」で声をかけたりしたら?どれも、わざとではないのに、意図せずにしてしまっているハラスメント行為ととられる場合もあるのです。

また、女性に性的な発言をしたり身体に触れたりすることはもちろん、結婚や出産について尋ねたり、急かしたりすることもセクハラの一種とされます。上の事例のように、男性から女性へのセクハラは多いものですが、逆もしかりです。対象となる男性が嫌がっているのに、女性が男性に交際相手の有無を尋ねたり茶化したりするといった行動もハラスメントになり得ることを忘れてはいけません。また、セクハラにあった被害者に「あなたにも隙があったのでは?」「あなたにも下心があったんじゃないの?」などといこともハラスメントのひとつです。

「そんなことでは、もう何も話かけられないじゃないか」と思うかもしれません。しかし実際に起きたハラスメント事例を見れば、特に管理職の立場の方であればこういったことがあるこということは必ず頭に入れておかなければなりません。

職場におけるパワーハラスメントの例

パワハラは、地位で優位にあることを利用し(またはそれを意図せずとも)相手に精神的・身体的に苦痛を与える行動です。厚生労働省では、「職場のパワーハラスメント」について次のように定義づけています。

「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」

では、例を見てみましょう。

上村課長「おい!渡辺!これ、どうなってるんだよ!」

渡辺剛「課長、すみません、すぐ直しますから。」

上村課長「お前はいつもこうなんだな!ああ?こんな能無しは辞めてしまえ!!」

千葉妙子「・・・。(それ、渡辺さんじゃなく課長のミスなのに・・・。)」

ドンと机を叩きながらとか、部下の胸を小突きながら部下を怒鳴り散らしたとすれば、それは間違いなくハラスメントです。この事例でいえば、加害者は上村課長、被害者は部下の渡辺さんです。でも、被害者は渡辺さんだけでしょうか?周囲で怒鳴り声や大きな物音を聞いて恐怖を感じ、自分のではない失敗で理不尽に怒鳴られて小さくなっている渡辺さんを見て、自分もいつか同じ目に遭うのではないかと不安に感じる、同僚の千葉さんに対するハラスメントでもあるといえます。

身体的な暴力はいうに及ばず、降格や閑職へ追いやることをちらつかせる有無を言わせず適正な範囲を超えて業務を押しつけることもパワーハラスメントのひとつです。いくら相手を鼓舞するためとはいえ、暴言を吐いてしまったり、相手を否定することもパワハラです。相手が負けん気を発揮して奮起することを期待していたとしても、ひと昔前なら当たり前だったかもしれませんが、それは決してやってはいけない行為です。
「昔はこうだった」「自分さえガマンすれば」という意識を捨てることが必要になります。

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